【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら
現実
昨日から名古屋に出張にいっていて、朝から部長がいないフロアに目を向ける。
最近では、帰りに部長が来ない事を、寂しいと感じている自分がいて嫌になる。
「羽田さん」
後ろから声をかけられて、私はその声の方に振り返った。
「あっ、先輩お疲れさまです」
あの、「終わらせて下さい」の日から、特にどうなったか聞かれなかったし、職場でそんな話をすることも、私から何かを言うのもおかしいし、どう話せばいいかもわからなかった。
そんな私の気持ちが、わかったのか先輩はいつもの様に微笑んだ。
「今日の夜空いてる?」
ここはきちんと話をするべきだろうと、私はデスクの下でギュッと手を握りしめた。
「はい。大丈夫です」
そう答えた私に、先輩も小さく頷くといつも通りの優しい笑顔を見せる。
「じゃあ、また夜に」
そう言って自分の席へと戻ってく先輩の後ろ姿を、私は複雑な思いで見つめた。