【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら
番外編

First Love



「優悟!今日の昼めしどうする?」

「あー、俺何でもいいや」
カメラを片手に適当に答える俺に、友人たちは「お前ってさ……」そんな声が聞こえた。

新入生が入ってきたキャンパスは、どこか少し浮足立っていて、ざわざわしている。

大学入学と同時にようやく家を出て、一人暮らしを始めた俺は毎日平穏な日々を送っている。

そんな中、俺は空にカメラを向けた。

きれいな青だな……。

「おっ、あの子!俺たちのサークルのポスターみてないか?」

え?

その声で俺はみんなの視線の先に目を向ける。

いかにも新入生というその女の子は、特別おしゃれでも、すごく目を引く美人でもない。

でも俺はその子の瞳と笑顔にくぎ付けになった。

『山や川や自然を一緒に撮りませんか?』
そう書かれたポスターをすごく愛しむように見ている女の子。

自然にその横顔にシャッターを切る。

それまで俺は自分からは女の子に声をかけたいとも思った事もないし、かけたこともなかった。


でも、俺は気づいたときには声をかけていた。

「一緒に写真を撮らない?」
そんなべたな言葉だったと思う。

真っすぐで、いつも一生懸命で、それでいて少し天然な彼女を見ているうちに、初めて本気で好きだと思った。

守りたい、誰にも取られなくない。
そんな強い気持ち。

今まで付き合った子には申し訳ないが、これが本当の恋だと思った。

俺の初恋……。



隣で幸せそうに眠る沙耶の髪にそっと触れる。
そして思い出して、ベッドサイドの引き出しから小さなアルバムを取り出す。

あった。

あの時俺が初めて撮った沙耶の写真。
今よりあどけなくて、幼い沙耶。

「どうしたの?眠れない?」
そんな思い出に浸っていた俺に、柔かな甘い声が聞こえた。

「ごめん、起こした?」
少し目を細めて沙耶に笑顔を向けて頬を撫でる。

「大丈夫」
そう言って俺の手に頬を擦り寄せる沙耶。

「なんでもないよ」
そう言って小さなアルバムをしまうと、俺は沙耶を抱きしめる。

安心したように、目を閉じた沙耶をしばらく眺めた。


あの頃と何も変わらない、その瞳と笑顔は永遠に俺が守るから……。

そう思いながら、俺もまた目を閉じた。








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