月に魔法をかけられて
残念なイケメン
「あー、美味しかった。お腹いっぱい!」

「ここ、また一緒に来たいね!」

いつものように割り勘にしようって言ったのに、彩矢が誕生日のお祝いだからと言って、私の分まで支払いをしてくれた。

「美月は東西線だから、茅場町で乗り換えだよね?」

駅までの道を歩きつつ、彩矢がスマホで電車の時間を検索しながら尋ねる。腕時計を見ると時刻は21時過ぎだ。

「そうなんだけど……。彩矢、実は今日ね、私ウェスティンホテルの予約をしてるんだ……」

「えっ? ウェスティンホテルって、あそこにあるウェスティン?」

彩矢がすぐ目の前にあるホテルを指さしながら、目を丸くして私を見た。

「うん。ネットで誕生日宿泊プランっていうの見つけてね、ホテルの朝食と高級スパが受けれるんだって。明日休みだし、自分への誕生日プレゼントってことで予約しちゃった」

誕生日の夜に1人でホテルに泊まって高級スパを受けるなんて、もしかしたら寂しいと思われてしまいそうで、思わず自嘲気味に笑ってしまう。
そんな私を笑うことなく、彩矢は残念そうな顔をした。

「それなら私も誘ってくれたらよかったのに!」

「じゃあ、彩矢も一緒に泊まる? キングサイズのベッドだから彩矢も寝られるよ」

「泊まる!って言いたいところなんだけど、明日朝イチに美容院の予約を入れてるんだよね……」

「そっか。じゃあ無理か……」

少し落胆しつつも笑顔を向けた私に、彩矢が何か閃いたような顔をしてパチンと手を叩いた。

「そうだ美月! 終電までまだ時間あるから、ウェスティンの上にあるバーに少し寄ってみない?」

「ウェスティンのバーってすっごい夜景が綺麗なんだよね? 私も行ってみたい!」

私たちは心を弾ませながら、すぐ目の前に見えるウェスティンホテルのバーへと向かった。
< 12 / 347 >

この作品をシェア

pagetop