月に魔法をかけられて
近づいていく距離
南青山に到着してタクシーから降りると、目の前にオシャレなヨーロッパ調の重厚な扉が現れた。ここがレストランだと知らなければ、高級ブティックと間違えて確実に通り過ぎてしまうような外観だ。副社長がその重厚な扉を開け、中に入っていく。すると男性スタッフがにこやかに出迎えてくれた。

「藤沢様、お久しぶりです。お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

案内されるままオープンキッチンとカウンター席を通り進んで行くと、奥に広々としたテーブル席が広がっていた。
少し灯りを落としたムードのあるオシャレな雰囲気の店内には、お客のほとんどが男女のカップルか女性の2人組だ。みんな楽しそうに話をしながらお酒を飲んでいる。私たちは一番奥のテーブルに案内された。

副社長が先に座り、私も続いて座ろうとしたとき、男性スタッフが私にニコリと微笑んだ。

「もしよろしければ、上着をお預かりいたしましょうか?」

「あっ、そうでした。すみません。お願いします」

副社長のスーツを脱いでスタッフに渡す。ノースリーブのワンピースだけになると、室内で暖房が効いているにもかかわらず、少し肌寒く感じた。
ふと視線を感じて副社長に顔を向けると、椅子に座っている副社長が私をじっと見つめていた。

「そのまま着ていたらどうだ? 脱いだら肩まで肌が出るだろ。寒いんじゃないのか?」

「い、いえ、大丈夫です。お店の中も暖かいですし……」

私は副社長から視線を逸らすように椅子に座った。
< 136 / 347 >

この作品をシェア

pagetop