月に魔法をかけられて
過去のトラウマ
11月に入り、街並みはオレンジと紫のハロウィン一色から、クリスマスに向けて華やかなデコレーションに彩られ始めていた。

彩矢と聡さんは順調のようで、週末になると2人でデートを楽しんでいるようだった。そんな彩矢の幸せな報告を聞くのが楽しみにもなっていた。

私はというと、何も変わらず毎日副社長の秘書業務をしながら仕事をしていた。ただ、彩矢と聡さんのこともあってか、副社長は少しだけ私に対して優しくなったような気がしていた。もしかしたら以前とは変わっていないのかもしれないけれど、私の副社長に対する恐怖心が少し軽減されたのは確かだった。

今日は年明けから放映されるコスメのCM撮影が行われるため、副社長は朝からスタジオに直行していた。

CM撮影か……。
マーケの人たちも来てるんだろうな。

私はマーケの時に携わっていたCM撮影の風景を思い出しながら、朝から副社長の経費精算をしていた。
すると突然パソコンの右下に副社長からのメールが通知された。急いでメールを開く。

『山内さん、送付した資料を添付のデータに修正して作成し直してください。そして申し訳ないのですが、5部ほどカラーで印刷をしてCM撮影のスタジオまで持ってきてもらえますか。よろしくお願いします』

指示と一緒に資料とデータが添付されている。
私がメールに添付された資料を開こうとしたとき、会社から貸与されている携帯がブルブルと震え出した。
携帯を手に取ると【藤沢副社長】と表示されている。
私は大きく息を吐いてひと呼吸置いたあと、画面をタップした。
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