辺境に追いやられた伯爵令嬢は冷徹な王子に溺愛される
第一章
嫌な色の空が広がっている。

真っ黒ではないものの、淡い靄と重たげな灰色が窓の外を覆い尽くしていた。風はほとんどなく、世界全体が沈んだ空気に包まれているように感じる。私は静かにため息をつき、重たい空を見上げた。
「嫌な天気ね……」
そう呟きながら、大きな鍋に森で採れたキノコをそっと投げ入れる。ぷくぷくと泡立つ湯の中で、キノコはゆっくりと色を変え、鮮やかな琥珀色のスープへと姿を変えていった。仕上げに秘密の隠し味をひとさじ。すると、たちまち香りが立ち込め、淡い黄金の輝きがスープに広がっていく。

「うん、美味しそう」
小さく呟きながら、私は塩と胡椒を振りかけた。

ここは、大国アルデール王国の片隅にある静かな町、レントオール。
アルデール王国は、絶対的な力を持つ王と王妃、そして彼らの間に生まれた二人の王子と、一人の姫によって統治されている。
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