ふしだらな医者ですが、 君だけの男になりました。
9.これは人生最高の結末です(荒木先生Side)
9.これは人生最高の結末です(荒木先生Side)
「明日美!」
俺は走りながら声を振り絞って彼女の名前を呼んだ。
空港のロビーにいる大勢の人たちが俺を避けていく。完全に不審者扱いだったが通り道が出来て好都合だ。
――数時間前。
夜勤明けだった俺は病棟でパソコンに向かっていた。
すると総合受付から電話で面会者がいるから降りてきて欲しいと言われた。
かなり面倒だったが急用だというのでしぶしぶ病院のロビーまで下りていった。
みるとそこには明日美と仲が良かった長髪の男が立っていた。名前は憶えていない。
「荒木さん、ですよね」
「……そうだけど」
そう答えると男はホッとしたように息を吐いた。
「ああよかった、お会いできて。僕のこと覚えてらっしゃいますよね? 実は、話したいことがあって……」
ずいぶん憔悴したような顔をしているのが気になったが、俺がこいつと話すことなんて何もない。
「仕事中ですので失礼します!」
そういって歩きだそうとするとそいつは俺の腕を掴んでこういった。
「待ってください。お願いですから聞いてください」
どうしてこいつがこんなに必死なのか――今の俺にそんなこと知る必要はないとおもった。
とにかく病棟へ戻って残った仕事を片付けなければならないから。
「離してくれませんか? 警察呼びますよ」
そう、乾いた声でいうとハッとした様子で手を放した。
「……それは困ります。じゃあ、これだけ言わせてください。今すぐ明日美さんを追いかけてください。今ならまだ間に合うと思うんです」
「……は? なんだって? いきなり押しかけてきてなにいい出すのかと思えば……悪いけど明日美とは別れたんだ。お前もし知ってるんだろ」
彼女は突然病院も辞めた。よほど俺から離れたかったんだろう。もし追いかけても拒絶されるに決まっている。
「お願いします」
男は俺の足元に膝をつくと額を床に押し付けた。
「なにしてんだよ! やめろって」