ふしだらな医者ですが、 君だけの男になりました。
5.これは人生最悪の三角関係です(荒木先生Side)
5.これは人生最悪の三角関係です(荒木先生Side)
翌朝LINEを開いてみると、昨夜の未読分すべてが送信取り消しにされていた。
取り消したということは返信不要ということでいいんだろうか、かなりモヤる。
「俺にどうしろっていうんだよ」
苛立ちをかき消すように頭をワシワシと掻く。隣ではまだ明日美が寝息を立てている。朝方まで眠れなかったようだし(俺も眠れなかったからわかる)、このまま眠らせておいてやるか。
今日は久しぶりに二人とも休みだ。買い物に行ってランチしようって約束していた。時間もたっぷりあるし、取りあえず俺も寝よう。
ベッドに潜り込んで目を閉じた瞬間、仕事用の携帯電話が鳴りだした。
あーもう、なんて日だ。
急いで寝室を出て通話ボタンを押す。
「はい。おはようございます荒木です」
救急科の医者からで救急車で受けた腹痛の患者が大腸の穿孔を起こしていて緊急手術が必要だという。
「……ええと、あと30分で行きます」
非番なのにセカンドコール。つまり、二番目に呼び出される。って、結局のところ非番じゃねえだろ。
「明日美。ごめん、呼び出しだ。昼には帰ってくるからランチにはいこうな」
「うん。わかった。頑張って」
明日美の頭にキスをして急いでシャワーを浴びた。
濡れた髪を拭きながらクローゼットから服を取り出すが仕事が終わったらデートすることを考えると服は適当には選べない。襟付きのシャッに春ニットとグレーのスラックス。最近暖かくなってきたので軽めのジャケットを羽織ことにした。冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取って車に乗り込んだ。
休日の早朝ということもあり道路は空いている。ハンドルを握りながら頭の中で手術のシミュレーションをする。
今日の当直は高木先生だから執刀医は彼。俺は助手に徹すればいい。術後の経過は日勤の医者が診るんだろうし、となると思ったより早く帰れそうだ。
「申し訳ないけど、今日の俺は仕事よりもデートだ」
「何か言いました?」
オペ室で並んで手を洗いながら高木先生が聞いてくる。
「いんや、何でもねえよ。それより、素早く正確に、やろうぜ」
バチン、とウインクをすると高木先生は無表情のまま頷く。おいおい、少しはノってくれてもいいんじゃねえの?
「もちろんです。お休みの荒木先生にはできるだけ早く帰ってもらいたいですから」
「お、いいこと言うねえ。さすがは高木先生」
当初の予定通り手術はとてもスムーズに進行した。穿孔の原因は腫瘍によるものだった。丁寧に切除して迅速の病理診断に出した。今後は抗がん剤による治療が必要になるだろう。
「荒木先生。ありがとうございました。後は僕が」
高木先生がそう言ってくれたので遠慮なく任せることにする。これから閉腹して患者の家族に説明して、病棟の看護師に術後の指示を出して……となかなかな仕事量だけど彼なら大丈夫だろう。
「悪いねえ。じゃあ、後はよろしく」
術衣を脱ぎシャワーを浴びて着替えると、病棟に顔を出した。
「あれ? 荒木先生どうしたんですか?」
夜勤の看護師が俺の姿を見てそう言った。
「緊急オペがあってさ」
「そうだったんですね、お疲れ様です」
「俺はほとんど何もしてないさ。ほぼ高木先生。患者はこれからICUに入るけど週明けには一般病棟に出られるんじゃないかな」
担当患者に変わりがないかだけ確かめて、急いでエレベーターに飛び乗る。
明日美が待ってる。そう思うと自然と気持ちが逸る。こんなにも誰かを愛おしいと思うのは初めてかもしれない。
七年前。俺は本気の恋をしていた――と思っていた。
翌朝LINEを開いてみると、昨夜の未読分すべてが送信取り消しにされていた。
取り消したということは返信不要ということでいいんだろうか、かなりモヤる。
「俺にどうしろっていうんだよ」
苛立ちをかき消すように頭をワシワシと掻く。隣ではまだ明日美が寝息を立てている。朝方まで眠れなかったようだし(俺も眠れなかったからわかる)、このまま眠らせておいてやるか。
今日は久しぶりに二人とも休みだ。買い物に行ってランチしようって約束していた。時間もたっぷりあるし、取りあえず俺も寝よう。
ベッドに潜り込んで目を閉じた瞬間、仕事用の携帯電話が鳴りだした。
あーもう、なんて日だ。
急いで寝室を出て通話ボタンを押す。
「はい。おはようございます荒木です」
救急科の医者からで救急車で受けた腹痛の患者が大腸の穿孔を起こしていて緊急手術が必要だという。
「……ええと、あと30分で行きます」
非番なのにセカンドコール。つまり、二番目に呼び出される。って、結局のところ非番じゃねえだろ。
「明日美。ごめん、呼び出しだ。昼には帰ってくるからランチにはいこうな」
「うん。わかった。頑張って」
明日美の頭にキスをして急いでシャワーを浴びた。
濡れた髪を拭きながらクローゼットから服を取り出すが仕事が終わったらデートすることを考えると服は適当には選べない。襟付きのシャッに春ニットとグレーのスラックス。最近暖かくなってきたので軽めのジャケットを羽織ことにした。冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取って車に乗り込んだ。
休日の早朝ということもあり道路は空いている。ハンドルを握りながら頭の中で手術のシミュレーションをする。
今日の当直は高木先生だから執刀医は彼。俺は助手に徹すればいい。術後の経過は日勤の医者が診るんだろうし、となると思ったより早く帰れそうだ。
「申し訳ないけど、今日の俺は仕事よりもデートだ」
「何か言いました?」
オペ室で並んで手を洗いながら高木先生が聞いてくる。
「いんや、何でもねえよ。それより、素早く正確に、やろうぜ」
バチン、とウインクをすると高木先生は無表情のまま頷く。おいおい、少しはノってくれてもいいんじゃねえの?
「もちろんです。お休みの荒木先生にはできるだけ早く帰ってもらいたいですから」
「お、いいこと言うねえ。さすがは高木先生」
当初の予定通り手術はとてもスムーズに進行した。穿孔の原因は腫瘍によるものだった。丁寧に切除して迅速の病理診断に出した。今後は抗がん剤による治療が必要になるだろう。
「荒木先生。ありがとうございました。後は僕が」
高木先生がそう言ってくれたので遠慮なく任せることにする。これから閉腹して患者の家族に説明して、病棟の看護師に術後の指示を出して……となかなかな仕事量だけど彼なら大丈夫だろう。
「悪いねえ。じゃあ、後はよろしく」
術衣を脱ぎシャワーを浴びて着替えると、病棟に顔を出した。
「あれ? 荒木先生どうしたんですか?」
夜勤の看護師が俺の姿を見てそう言った。
「緊急オペがあってさ」
「そうだったんですね、お疲れ様です」
「俺はほとんど何もしてないさ。ほぼ高木先生。患者はこれからICUに入るけど週明けには一般病棟に出られるんじゃないかな」
担当患者に変わりがないかだけ確かめて、急いでエレベーターに飛び乗る。
明日美が待ってる。そう思うと自然と気持ちが逸る。こんなにも誰かを愛おしいと思うのは初めてかもしれない。
七年前。俺は本気の恋をしていた――と思っていた。