ふしだらな医者ですが、 君だけの男になりました。
6.これは人生最大の別れです
6.これは人生最大の別れです

「ねえ、明日美」

 夕方の申し送りが終わり帰り支度を始めていると小春が話しかけてきた。

「なあに、小春」

「今日これから空いてたら飲みに行かない?」

「お、いいね。行こう!」

 小春はお付き合いしている高木先生を追って、近々この病院を退職する予定だ。引っ越しの準備が忙しそうで最近プライベートで会う機会も減っていたのでこの誘いはとても嬉しかった。

着替えるために更衣室に向かい、そこで内科勤務の里奈と出くわす。暇しているという彼女も誘い三人で飲みに行くことになった。

病院から徒歩圏内のイタリアンバルに入る。平日ということもあり、店内は割と空いていた。

それぞれ好きなお酒を注文し、乾杯する。

「そういえば小春は里奈と面識なかったよね? この子は内科病棟勤務の箱崎里奈。見た目は派手だけど、いい子だよ」

 そう紹介すると里奈は「派手じゃないもん」と唇を尖らせる。

「この子は小春」

「はじめまして、及川小春です」

「どうも、里奈です。及川さんって高木先生の彼女なんですよね? めちゃくちゃ有名人ですよ。近くで見るとすごくかわいいですね」

 里奈はお世辞は言わないタイプだ。少々ストレートな物言いが気になることはあるが、本音で話せて私は好き。

「ええ!? 有名人なんて、そんな……困ります。私なんかかわいくもないし、彬とは釣り合ってなくて……」

 里奈の勢いに押されて、小春のネガティブが発動している。

「なに言ってるんですか、院内人気ナンバーワンの外科医の彼女って胸張ってくださいよ。大声で自慢したっていいくらいなのに」

「そうそう。里奈、もっと言ってやって! この子、自自信なさ過ぎて自滅するタイプなの」

「もう、明日美までそんなこと言ってー」

 それから私たちは女子トークに花を咲かせた。小春が病院を辞めてしまったらこんな風に仕事帰りに飲みに行くこともできなくなってしまう。なんだか寂しい。

荒木先生とはすれ違いの生活だ。里奈とは病棟が違うのでなかなか思う様に会えない。ふとしたときに孤独を感じる。

 二時間ほどして解散となった。私は明日夜勤だけれど、二人は日勤なのだそうだ。病院前でバスに乗りマンションまで帰る。

オートロックを解除してエントランスを抜けエレベータホールに向かうとうずくまる人を見つけた。

ロングヘアの細身の女性だった。

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