ふしだらな医者ですが、 君だけの男になりました。
8.これは人生の新たな始まりです
8.これは人生の新たな始まりです
「――そう。残念だけど仕方ないわね……でも、本当に退職でいいの? 産休も育児休暇も取れるわよ」
私の退職の申し出に師長は困った様子でそう言った。お腹が目立ち始める前にどうしても退職しなければならないと考えた私は無理を承知で師長に相談をした。
人手不足なうえ、二か月後に退職したいだなんていわれたら後に残るスタッフが大変な思いをするのは目に見えている。
「分かってます。でも……」
「あなたは仕事もできるし本当は辞めて欲しくないのよ」
そう言ってもらえるのはとてもうれしいことだった。自分の頑張りが認められたようで誇らしい。
「ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです」
「考え直してみる?」
ただ、この大きな病院で私一人がいなくなっても必ず人員は補充されるし私程度の技術を持った看護師は山のようにいるのだ。ゆっくりと首を横に振った。
「いいえ。退職させてください。急で申し訳ありませんがよろしくお願いします」
私だって大好きな職場をこんな風にやめなければいけないなんて不本意だ。でも、妊娠していることを荒木先生にだけは知られたくなかった。
もし知られてしまったら……先生はどうするだろう。
きっと困るにちがいない。ほのか――佐藤和美との今後の障害になるから。もしかしたら産むことを反対するかもしれない。ああ、いやだ。これいじょうはもう考えたくない。
「久保さん、大丈夫? 顔色が優れないようだけど……」
「大丈夫です」
「プライベートなことだからこれ以上はあえて何も聞かないけど、困ったことがあればいつでも相談してね。体調が悪い時も無理しなくていいからね」
「はい。ありがとうございます。ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」