幼馴染御曹司と十日間の恋人契約で愛を孕んだら彼の独占欲が全開になりました
最初の一夜、最後の一夜
沙也(さや)

 耳に吹き込まれる声は、普段聞いているもの、もう十年以上も耳にしていた声と、まったく違っていた。

 熱っぽく、やわらかく、なによりも甘い声。沙也の胸を、一番奥から震わせる。

 とろりと蕩けそうな体と思考の中で、沙也はなんとか目を開けた。

 視線を上に向ければ、黒髪を少し乱した彼の、声と同じ色をした瞳が、沙也を真っ直ぐに見つめている。

 こんなときに見つめられるのは恥ずかしい。

 でもなにしろ『最後』なのだ。目を逸らしてしまう選択はできなかった。

 体に感じる刺激は強く、沙也を翻弄していたけれど、それでももう視線は逸らさなかった。

 途中からしっかり繋がれていた、互いの手と同じように、視線からもひとつになる。

清登(せいと)……くん……」

 沙也のくちびるは勝手に動いていた。自分を真っ直ぐに見つめる、ただ一人の大切なひとの名前を口に出す。

 沙也が呼んだことで、清登の眉が少し寄った。歪んだ表情になるけれど、それはとても切なそうな表情だった。

「今までごめん」

 身を屈め、沙也の頬に触れる。片手を使って、やわらかく包んだ。

 沙也の頬は、片手だけでも、その大きなてのひらにすっぽり包まれてしまう。

 知らないうちに、目を細めていたようだ。

 浮かんでいた涙でうっすらぼやけている視界でも、清登の表情はちゃんと見える。

 間近でささやかれた、切なげな言葉も、しっかり沙也の耳に届いてくれた。

「……ずっと触れたかった」
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