スイート×トキシック
◇ifストーリー『ふたりの世界』





『────でもね、ひとつだけ。どうしても十和くんの言葉で聞いておかなきゃならないことがある』

 彼の犯した罪は誘拐や監禁だけじゃなかった。

 その事実を受け止めながら、部屋へ戻ったわたしはクローゼットを開けてみる。

 コレクションのように並んだ服たちがいっそう凄然(せいぜん)として見えた。

 ハンガーのまま、かけられている服を床に落としていく。
 (またた)く間に小さな山ができあがった。

「……何してるの?」

 開けっ放しになっていたドアの戸枠部分から、追ってきたのだろう十和くんが声をかけてきた。

「捨てて欲しいの、これぜんぶ」

「え、でも芽依のために────」

「いいの、もう。そんな嘘つかないで」

 はっきりそう言ってのけると、彼は驚いたような顔をした。
 すぐに力を抜き、やわく笑う。

「……そっか、もう分かってるか」

 分かっている。
 これらは彼の罪の証。

 だけど、わたしにはもはやその罪を立証する気なんてなかった。
 捕まって欲しくない、と切に思う。

 何より過去の恋を早く忘れて欲しかった。
 自分以外の女の子の気配と共存するなんて耐えられない。

 これからはわたしがいる。
 そばにいるのは、わたしだけでいい。

 彼を傷つける負の連鎖は、わたしが断ち切ってあげるから。
 すべてを受け入れるから。

 何があっても、どんな真実でも、どんな結末でも受け止めるから。
 わたしも一緒に十字架を背負っていく。

「…………」

 だけど、とうつむいた。
 今日という分岐点を迎えるまで、ずっと迷っていたことがある。

 十和くんの愛情を一身(いっしん)に受けて幸せを感じても、その(かたわ)らで常に気にかかっていた秘密。

「……芽依?」

 本当のわたしを知ったら、彼もまた軽蔑(けいべつ)するだろうか。

 怖い。怖くてたまらない。
 十和くんの心を失うかもしれないと思うと、足がすくむ。

(でも、このままじゃだめ)

 隠しごとがあるのはお互いさまだ。
 けれど、このまま黙っていたら(あざむ)いているのと変わらない。

 十和くんを信じると言うのなら、せめてわたしはすべてを打ち明けるべきだ。

「あのね……」

「ん?」

「ずっと、十和くんに言ってなかったことがある」
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