桜ふたたび 前編
2、蒼い炎
古琴と琵琶の高雅な調べに乗って、ロイヤルブルーのチャイナドレスが、螺鈿の円卓に珍味嘉肴を運んでくる。
黒と黄を基調にしたメインダイニングは、中国宮廷を思わせる趣。下がり壁には龍が舞い、空間を囲むように睨みをきかせている。ホール中央の硝子の丸柱の中で、金龍が水晶珠を足に掴み、威厳に満ちた姿で静止していた。
ランチには遅い時間だからか、花々の透かし細工を施した花梨の衝立の向こうに、客の姿はない。
「日本の方がニュースソースが豊富だな」
ジェイは、マオタイ酒のショットグラスをクイッとあおった。
事件が起こるわずか数分前、ジェイを乗せた飛行機はラガーデア空港を離陸していた。
運が悪ければ、マンハッタン島の全封鎖に缶詰になるところだった。機内で第一報を受けたが、現地の混乱と報道規制の影響で、まともな情報が入手できずにいたのだと、空港に迎えに来ていたリムジンのなかで、ジェイが説明してくれた。
澪が空港へ駆けつけたのは、ジェイの姿をこの目で確かめなければ、彼の無事が信じきれなかったからだ。
不吉な夢は何かの暗示で、もしかすると彼は瀕死の重症を負っていて、あの電話も幻だったのかもしれない──。
だから、彼の顔を確認したら、すぐに京都へ戻るつもりでいた。それが……。
澪は、再会の安堵も吹っ飛ぶほどの緊張感に、固まっていた。
ただでさえ高級レストランの雰囲気に呑まれているのに、円卓を挟んで、白シャツにタイトスカート、艶やかな黒髪を一筋の乱れもなく束ねた女性が、冷めた視線をこちらに向けている。
椅子に背筋をまっすぐ腰掛け、秀でた額が聡明さを、きゅっと結ばれた口元が意志の強さを、そして切れ長の目が鋭い洞察力を物語っている。
黒と黄を基調にしたメインダイニングは、中国宮廷を思わせる趣。下がり壁には龍が舞い、空間を囲むように睨みをきかせている。ホール中央の硝子の丸柱の中で、金龍が水晶珠を足に掴み、威厳に満ちた姿で静止していた。
ランチには遅い時間だからか、花々の透かし細工を施した花梨の衝立の向こうに、客の姿はない。
「日本の方がニュースソースが豊富だな」
ジェイは、マオタイ酒のショットグラスをクイッとあおった。
事件が起こるわずか数分前、ジェイを乗せた飛行機はラガーデア空港を離陸していた。
運が悪ければ、マンハッタン島の全封鎖に缶詰になるところだった。機内で第一報を受けたが、現地の混乱と報道規制の影響で、まともな情報が入手できずにいたのだと、空港に迎えに来ていたリムジンのなかで、ジェイが説明してくれた。
澪が空港へ駆けつけたのは、ジェイの姿をこの目で確かめなければ、彼の無事が信じきれなかったからだ。
不吉な夢は何かの暗示で、もしかすると彼は瀕死の重症を負っていて、あの電話も幻だったのかもしれない──。
だから、彼の顔を確認したら、すぐに京都へ戻るつもりでいた。それが……。
澪は、再会の安堵も吹っ飛ぶほどの緊張感に、固まっていた。
ただでさえ高級レストランの雰囲気に呑まれているのに、円卓を挟んで、白シャツにタイトスカート、艶やかな黒髪を一筋の乱れもなく束ねた女性が、冷めた視線をこちらに向けている。
椅子に背筋をまっすぐ腰掛け、秀でた額が聡明さを、きゅっと結ばれた口元が意志の強さを、そして切れ長の目が鋭い洞察力を物語っている。