桜ふたたび 前編

3、薔薇の騎士

──どうして、こんなことになったの?

澪は絶望の色を宿したまなざしを、ジェイの澄ました横顔へと向けた。

煌びやかな大宴会場は、まるで芸能人の結婚披露宴。ステージには躍動感溢れる活け花が演出され、ホールの中央には建設中のスタジアムを模した巨大なジオラマが据えられている。
周囲のテーブルには、スーツや和服姿の、どう見てもお歴々の顔があった。

緊張のランチのあと、「ふたりでディナーを」と誘われて、喜んでお引き受けしたのに、まさかのレセプションパーティーだったなんて──騙された。

いや、元はと言えば澪のわがままで押しかけてきて、仕事の邪魔をしているのだ。予定があるなか、少しでも一緒にいられる時間を作ってくれたのに、文句を言うなどお門違い。わかってはいるけれど……。

ジェイが用意してくれたシャンパンゴールドのカクテルドレスは、フラワーレースのトップとフィッシュテールのスカートが、とてもエレガントだけれど。プロのヘアメイクは、別人のように変身させてくれたけど……。
なんだか晴々しくて、七五三みたい。

パーティーなんて同窓会しか経験がなく、マナーもエチケットもよくわからないから、場違いだと白い目で見られていそうで、いたたまれない。

せめてジェイが話しかけてくれたら、少しは気が楽なのに、彼は無頓着に外国人相客との会話を続け、しまいには、挨拶に来た官僚風の男性と連れだって、席を離れていってしまった。
彼の神経が信じられない。

とにかく、リンと約束したとおり、彼の足手まといにならないように、がんばって落ち着こうと努力しているけど、胃の奥がジクジク痛くなるばかり。

結局ここでも食事が喉に通らず、なんとかグラスの水を飲み込んだとき、背後に気配を感じた。
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