桜ふたたび　前編

4、雨のプラットホーム

窓に面した鉄板焼きのカウンター席。正面には、青白くライトアップされた京都タワーがそびえている。

駅ビルに併設されたホテル最上階のレストランは、駅の喧噪と切り離された別世界。
天気がよければ、京都五山の稜線が臨める見事な眺望だけれど、今夜はあいにく、雨に滲んだ街が見下ろせるだけ。街灯りもぼんやりと霞んでいた。

澪は、窓ガラスに映るジェイの顔を、気取られぬようにそっとうかがった。

京都駅の改札前で、最初の数秒目が合っただけ。彼はついっと視線をそらすと、あいさつも抜きに「食事にしよう」と言ったきり。澪を振り返ることもなく、ずっと無言。

電話から一時間近く経っている。いくらなんでも待たせすぎた。
しかも、相手にそぐわないファストファッション。走ってきたから、汗をかいて髪も乱れている。

有無を言わさぬ誘いだったにしても、折り返し断りを入れることもできたのにと、後悔してももう遅い。

澪は覚悟を決めて、ジェイに向き直り、深々と頭を下げた。

「すみませんでした」

何事かというように、ジェイは片眉を上げた。

「ずいぶんお待たせしてしまって……」

「私が急に呼び出したのだから、君が謝る必要はない」

ようやくこちらを向いてくれて、ほっとしたとたん、上がり症の虫が目を覚ました。
次はなんと返したらいいのだろう。なにか言わないと、気詰まりな思いをさせてしまう。早くなにか──。
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