【完結】年の差十五の旦那様Ⅱ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~
第35話 シェリルとギルバートの視察(8)
 その瞬間、エヴェラルド様が露骨に狼狽えた。だからこそ、私はエヴェラルド様を強くにらみつける。

「あの子のこと、何もわかっていないくせにわかったような口を利かないで――!」

 エヴェラルド様はエリカの表面しか見ていない。むしろ、あの子に近づいていた人間は皆が皆そうだったのだろう。

 落ちぶれた侯爵家の令嬢。強い魔力を持つ令嬢。表面上は優しく、可愛らしい女の子。

 きっと、周囲はエリカのことをそう思っていた。……あの子の心のことなんて、誰一人として考えなかった。

 ……私も、一緒。

(そうよ。私もエヴェラルド様を責められるような立場じゃない……)

 私は自分の身を守ることに必死で、エリカのことは二の次だった。エリカのことを守ってあげなくちゃ。そう、思わなきゃいけなかったのに。

(私は、エリカの『お姉様』なのに――!)

 昔は泣き虫で、泣いてばかりで。私のことをちょこちょこと追いかけてきて。そんな彼女の心を壊したのは――私も、一緒。

「お前みたいな女に、説教される筋合いはないんだよ!」

 私の表情が曇ったのを見てか、エヴェラルド様はそうおっしゃると――私の顔を思いきりひっぱたいてくる。……幸いだったのは、グーで殴られなかったことだろうか。男性の力で殴られてしまえば、ひとたまりもない。

「お前だってエリカのこと何もわかっていないじゃないか!」

 その言葉に、私の心がずきんと痛む。

 下唇をかみしめて、私はうつむく。……あの子は、私に助けを求めてくれた。私だって、あの子の力になりたい。その気持ちに嘘偽りはないし、あの子が怯えているのも真実で――……。

(もう、何が何だかわからない……)

 様々な要因が絡まって、私の頭が混乱してしまう。
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