【完結】年の差十五の旦那様Ⅱ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~
第20話 視察、決まりました
「あ、あの、要望書って……?」

 私が頭上に疑問符を浮かべながらサイラスさんにそう問いかければ、サイラスさんは「あぁ、シェリル様はご存じなかったのですね」と言う。

「要望書とは、その名の通り民たちからの要望が書かれたものです。このリスター伯爵領では、年に一度の頻度で民たちから要望書を集めるのです」

 サイラスさんは、そこまで言って一旦言葉を切る。その後、要望書のことを詳しく教えてくれた。

 このリスター伯爵領では数代前から年に一度民たちから要望を聞いていると。その内容は多岐にわたり、領地内の設備の不備から、農民たちの近況や状況などもあると。大体の内容は領地内の設備の不備らしいのだけれど、今年は農民の人たちからの要望が多いとサイラスさんは教えてくれた。

「……まぁ、土の魔力が枯渇しているからな。それは、当然だろう」

 ギルバート様は顔を引きつらせながら、目の前の要望書に一枚一枚目を通して行かれる。きっと、数に圧倒されているのだわ。この量は、なかなか一日で終わるものではないと思う。

「大体は私の方で仕分けしておきました」
「……助かる」
「いえいえ、それが私の仕事ですので」

 サイラスさんは淡々とそう言って、ギルバート様に次から次へと要望書を手渡す。ギルバート様の目が、「もう少しゆっくり」と語っているけれど、サイラスさんはお構いなし。挙句の果てにサイラスさんは「いちゃついている暇があるのならば、働いてください」と言っているくらいなのだ。……私が、口づけを強請ったのが悪いのよね……。

「あ、あの、サイラスさん……」
「どうしました?」
「私が、ギルバート様に二人の時間を作ってほしいと、おねだりしたのです。ですので、決してギルバート様が働いていないわけでは……」

 視線を下に向けながらそう言えば、サイラスさんは一瞬だけ視線を下に向け、「……知っていますよ」と口元を緩めて言ってくれた。
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