出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
第五章
 アンヌッカがメリネ魔法研究所に顔を出すと、アリスタもマーカスも驚いたような安心したような表情を浮かべて迎えてくれた。
「まぁ。あれだな、その格好も似合っているな」
「ですがね、お兄様」
 そう言いながら、アンヌッカはくるっと一つにまとめていた髪の毛を、パサリとおろす。
「旦那様は、まったくわたしに気づいていなかったのです。変装しなくてもよかったのでは? と思ったのですが、王太子殿下とばったり会ってしまったので」
「もしかして、バレたのか?」
 焦って身を乗り出したのは、マーカスである。
「いいえ」
 アンヌッカはゆっくりと首を振った。
「あの髪型がよかったのか、殿下はカタリーナ・ホランがアンヌッカ・メリネ……マーレ? まあ、どちらもいいのですが。とにかく、気がついていないようです」
 あの結婚式でたった一回、ほんの数秒顔を合わせたきりだから、覚えてもいないのだろう。
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