出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
第六章
 今日は天気がよいうえに軍での仕事も休みの日なので、アンヌッカはヘレナと一緒に庭でお茶をすることにした。相変わらずこの屋敷には誰もやってこない。それは、当主であるライオネルですら寄りつかない。
 コリンズ夫人は、定期的に彼からの手紙を持ってくる。それには「必要なものがあれば好きに買え」「社交の場には出なくていい」と、アンヌッカが尋ねた「東屋のテーブルを新しくしてもいいですか?」「お茶会の招待状が届きましたがどうしたらよいですか?」という質問に対しての答えであったりする。それ以外の身を案じるような言葉は、いっさいない。
 だから、アンヌッカが尋ねることがなければ、彼からの手紙など届かない。それでも定期的には手紙のやりとりをしたほうがいいのではないかという思いもあり、尋ねることがないときは些細なことでも手紙に書くようにしていた。例えば、ヘレナと一緒に菓子を作ったとか、そういったどうでもいいようなこと。
 また、軍人であるライオネルはそれなりに顔を知られているようで、その夫人となったアンヌッカとお近づきになりたいという者も多かった。
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