出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
第九章
 アンヌッカが軍服を身にまとうのはもちろん初めてだ。カタリーナとして軍で働くアンヌッカだが、さらにカタリーナが男装してユースタスの護衛役の軍人となっている。いつもは一つにくるっとまとめてシニヨンにしていた髪をローポニーテールにした。これで、カタリーナがアンヌッカだと知られたらどうしようかと焦ったが、カタリーナは黒縁眼鏡もかけている。それだけで印象はがらっと変わるもので、ユースタスですら男装カタリーナがアンヌッカであるとは疑っていないようだ。
 結婚したのも一年近くも前。となれば、ユースタスだってあのときのアンヌッカを忘れているにちがいない。
 ユースタスは、あれ以降、定期的に礼拝堂へ足を運び、祈りを捧げているらしい。これは、隠し部屋を探すための偽装のようなもの。
 最近、王城内では王太子ユースタスが神に祈りを捧げるようになったと噂になっている。その理由も、素敵な伴侶と出会うためだと言いふらし始めたのは、ユースタス本人であると知っているのはアンヌッカとライオネルくらいだろう。
 ユースタスに結婚願望が生まれたのは、部下のライオネルが結婚したためだと、それらしい話を作っているところは感心してしまう。
 それもあってか、ユースタスには釣書が大量に届き始めたとも聞いている。そもそも王太子という身分を持ち、今まで婚約者の一人も決めていなかったのだから、ここぞとばかりに年頃の娘を持つ権力者や、彼に思いを馳せる令嬢らが売り込んでくるのだ。
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