出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
第三章
 ライオネルと結婚したアンヌッカであるが、結婚前とかわったことと言えば、姓がメリネからマーレになったことくらいだろうか。もしくは、メリネ家の屋敷を出てマーレ家の屋敷でヘレナと二人で暮らしていること。
 それ以外は、今までと変わったところは思い浮かばない。
「アン。この本をたのめるか?」
 メリネ魔法研究所の事務所の一室には、アンヌッカが作業する机なども用意されており、それは結婚した今も相変わらずだった。
「また、古そうな本ですね」
 マーカスから手渡された本は、装丁がすり切れ、ところどころ文字もかすれて読み取りにくいものだ。
「ゾフレ地区の魔塔の地下書庫から出てきたらしい。魔導士らも読み解こうとしたようだが、お手上げみたいで、うちに依頼がきた」
「ですが……まぁ、読めないことはないですね」
 ぱらぱらと中身を確認したところ、いくつかは調べる必要はありそうだが、五割程度は典型的な古代文字で書かれている。それをマーカスに伝える。
「その典型的な古代文字すら、理解するのが難しいんだよ」
 アンヌッカにとっての古代文字は、魔法術式を解析するために必要なもの。
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