出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
第四章
 この場所に来たのは、結婚式を挙げたあの日以来だろう。それだって、同じ敷地内にある礼拝堂に足を運んだだけで、王城や軍本部の建物などには、入ったことがない。
 アンヌッカは建物の入り口の前に立つ軍人に声をかける。
「あ、あの……メリネ魔法研究所から来ましたカタリーナ・ホランと申します。今日は……」
「お待ちしておりました。ホラン様」
 すべてを言い終わらぬうちに、言葉の続きは門番に奪われた。
「お部屋にご案内いたします。ホラン様がお見えになったら、逃げ出さないように丁寧に対応しろと言われておりまして……」
 なんとも、正直な人である。
 相手が軍人と言うだけで、身構えてしまう者も多い。そこに鍛えられた身体と、険しい表情を浮かべた顔があったら、アンヌッカでさえも一歩引いていただろう。
 しかし、アンヌッカを案内するといった軍人は、ひょろっとした線の細い男であった。軍人らしくないといえばそうかもしれないし、これで魔獣討伐ができるのだろうかと不安になるほど。
「あ、ご挨拶が遅れました。私は魔法研究部に所属するセール・レッドと申します。階級は軍曹であります」
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