苦くも柔い恋
新しい居場所



高校を卒業し、新天地で生活を始め早数年。

第二志望(すべりどめ)で受けていた地方の大学も卒業し、そこで和奏は幼い頃のような明るさを取り戻していた。

両親に頼み込んで卒業式を待たずに実家を離れ、大学に通える距離にあるマンションに居を移した。

大学も、住む場所も、父と母以外には誰にも教えなかった。

美琴にも、もちろん千晃にも。


誰にも何も告げずに去り、スマホの機種も番号も新しく変え連絡先もブロックの上消去した。

今電話帳には父と母、それから大学で出会った友人と職場の同僚の名前しか無い。

元々中高でそれほど仲の良い友達も出来なかったから何も困る事はなかった。


今の生活は快適だ。

スペックの違い過ぎる姉と比べられ蔑まれる事もなく、千晃に懸想する女達からたかが昔馴染みのくせにと敵意を向けられる事もない。

和奏を、橋本和奏というただの1人の女として接してくれる。




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