永遠を糸で縫い留めて

額縁

真紅の壁で覆われたうすやみいろの美術館

私のいっとうすきな場所よ 

すこし冷えた室内 

ちいさなリボンのついた黒い靴で歩くたび 

氷を銀の匙で割ったような音が鳴るの 

背に両手をまわし 見上げれば浮かぶ

金星のような額縁 

描かれるはオコジョのマフラーを首に回した美女 

マラカイトグリーンのつめのいろが

目に刺さるようにあざやかで 

今まで生きて 死んでいったひとたちも 

彼女と出会ってきて

その道の延長線上にひとり 私がいるの 

そう思うとふしぎ 

私が生まれてここに立っている意味が 

この絵と出会うために 生きてきたように感じる

彼女と目が合う アーモンド型 琥珀色のひとみが 

花弁のようなホワイトブロンドのまつげに覆われて 

私の乾いた舌のうえをころがり 

その中へ眠る赤い心臓を

まっすぐに射抜く金色の矢のようで

私は瞳をすがめて 涙をこぼした
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