永遠を糸で縫い留めて

薔薇のマスク

光ある春の日に、白いマスクをしていくのが嫌だった

空気を生身で感じたい 布越しに生気を通さないで

毎日同じ日が続き、精神が疲弊してしまった頃

ダイニングテーブルに突っ伏す私の元へ母がやってきた

母の姿はガラス窓で逆光となっていて

暗く表情は伺えなかった

私の鼻先に差し出されたもの

それは小さな薔薇の刺繍の施されたマスクであった

目を見開き、驚く私に

母は「お前の為に縫った」と口にした

私はそのマスクを己の額に当て

たださめざめと涙を流しながら

ゆっくりと微笑んだ

後日、白地に赤い薔薇の刺繍を施したマスクを着けた私の姿は、近所で噂となり

真似をする人が増え

「薔薇の花を咲かせたマスク」は町の名物となった
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