永遠を糸で縫い留めて

夜汽車

ちいさな茶色いカバンひとつ

腕の中に納まるサイズ

それだけが 僕のすべてなのだと悟った

白地に蒲公英の刺繍の施されたハンカチだけは

どうしても捨てることが出来なかった

君がくれた 唯ひとつの物だったから

夜汽車に乗るのは初めてだった

多くの人が乗っているはずなのに

ここでは僕ひとりだけが 漂っている

寂しいのか

それとも 柵《しがらみ》から解放されて嬉しいのかわからない

ただ夜汽車と共に 道を黙々と走り続ける

時折強いライトのひかりが 当たって瞳をまたたく

気だるげな僕の体に残されたのは 君の思い出だけ

夏の名残が まだ胸の内に残っている

ああ 消えないで
< 31 / 484 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop