永遠を糸で縫い留めて

鈴虫

さやかに厳かに りんりんと羽音が聞こえる


それは 秋だけに訪れる無数の鈴の音


夜の帳が降りる頃にだけ出会える奇跡


夢ふたたび 薄絹のように舞い降りて


ひらひらとゆらぐ小羽は 誰の元へゆくのだろう


指先につめたさを感じながら


ゆっくりと天へ文字をなぞってみる


白く薄い線が 鰯雲のように薄闇に棚引いていく


吐息の周囲を纏うように鈴虫の音が


りいん りいん と零れ落ちてゆく


それに合わせ 着物の帯をゆっくりと解くと


生まれたままの姿で 湿った地を駆けていった
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