永遠を糸で縫い留めて

賢木

愛するあなたは 遠くへ行ってしまった


私のそばに置いておきたかった 朧月夜は 雲間からあらわれてしまった


誰も私の味方はいない 誰も私のそばにはいない


ただ白い花だけが 夜の透明な空気の中をたゆたっている


いずれここに誰か戻ってこようとも 


もう私はいないだろう 


この世でもっともあいしていたあのひとは 


手の届かぬ信仰の中央へと歩いてしまっている


もう誰も 私に興味などないだろう


もう誰も 愚かな私と関わろうとはしてこないだろう


それならばどうか 放っておいてくれないか


この紺色のくらやみのなかを たゆたう赤い鯉のように


静かに水辺に身を浸して 孤独を味わっていたいのだ
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