永遠を糸で縫い留めて

若菜上

かすかに緑に染まった風が吹く


御簾があがり 貴女の姿が垣間見える


はらはらとそよぎ 薄紅の裳裾にこぼれる黒髪は 白いつやの線を描き


紫の小川が描かれた扇は やわらかなくちもとを ひたと隠している


闇色の目だけが きりりと涼しげで どこか寂しげで


風が貴女に向かって泳ぐのが目に見えた 初めてのことだった 


私はますます胸の奥が熱い炎で炙られ


溶けて消えてしまいそうな恋の想いに身体中を蝕まれ


若菜の上になみだを流し


近くにいても遠い貴女の名前を 宵闇の中でひとりつぶやくのだ


誰にも聞こえぬほどの 細くかすれた声で 


< 432 / 484 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop