永遠を糸で縫い留めて

冬の黒い海を泳ぐ船

波は月あかりで金に色を流している

俺はその船に乗るひとりの船員 沖に流された船は どこへ向かうかもわからない

眠れば凍えて船室の中で死んでしまうかもしれない
 
窓から外を見る 

ひかりを受けたこなゆきが しんしんと海面にふれて 溶けて消えてゆく

俺の命と同じだ

女房と子供の顔が浮かぶ 

こなゆきのように 浮かんでは溶けて 記憶の中へ消えてゆく

あれはいつのことだったろうか 死んだ友と交わした酒と笑い声がする

今までありがとう 俺と話してくれて 

共に過ごしてくれた かつての知人 

さようなら

冬の黒い海の上にて 

ふるびて黄ばんだノートの切れ端に そっと感謝を書いた

船は流れてゆく 

船は沈んでゆく
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