【コミカライズ】仕事の出来る悪役令嬢、薄幸王子様を幸せにアップグレードしておきました。

11 立太子の儀式

 しんとした沈黙の中、シュレジエン王城の大広間へと、王太子ウィリアムは現れた。

 豪華な儀礼服を身に纏い、艶のある黒髪を撫で付けた彼を見て、縦に横にと空間が広がる大広間に集まる人々の感嘆のため息が漏れた。

 私はその時、ダスレイン大臣の顔をじっと観察していた。

 今この時に、美麗な容姿を持つ王太子ウィリアムではなく、群衆に埋もれているはずのダスレイン大臣に注目しているのは、私ただ一人だけだろう。

 癖のある茶色の髪と髭に縁取られた、いかにも人の良さそうなふっくらとした体型の中年の男性。人当たりも良く優しい語り口で、誰もがそんな彼には油断してしまうことだろう。

 心中では自らが王位簒奪するためには、王族すべてを皆殺しにして王国だってめちゃくちゃにしても良いとまで思って居る極悪人だなんて、なかなかに見抜けないのも無理はない。

 ……呆気に取られて、まさか、目の前の光景を信じられないという間抜けな表情。

 あらあら。思っていた展開とは違い驚いたからって、これは油断し過ぎではないかしら。

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