【完結】年の差十五の旦那様Ⅲ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷な辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~
第32話 約束
「……旦那様」

 なんだろう。そう言われると、胸がむず痒くなるような感覚だった。

 だって、そのお言葉は旦那様が私の表情をよく見てくださっているという証拠のような気がしたから。

「……ありがとう、ございます」

 ぽつりとお礼を言えば、旦那様はこくんと首を縦に振ってくださる。何処かお顔が赤いのは、気のせいじゃないはず。

「ところで、シェリル。……疲れただろう。夕食は寝室に運ばせるから、一度眠ってきたほうがいい」

 一度だけ咳ばらいをされた旦那様が、そう言ってくださる。

 窓の外に見える外の景色はオレンジ色に染まっていて、あれから時間がかなり経ったということがわかる。

 確かに時間があるのならば眠ったほうがいいと思う。体力を回復させるのも、大切だもの。でも……。

「……じゃあ、一つだけお願いがあります」

 旦那様のお顔を見上げて、私ははっきりとそう告げる。一瞬だけ不意を突かれたように旦那様が目を見開かれる。

 そのあと、旦那様はなんだか少し呆れ顔になられた。最近では私はわがままを言ってばかりだ。旦那様はそれをほとんどすべて叶えてくださる。その所為で、余計に。……調子に乗ってしまうのかもしれない。

(もう少し、自重したほうがいいのかしら……?)

 とはいっても、今はいろいろと辛い状態。少しくらい癒しをくださったもいいじゃない、と思う気持ちもある。

 だから、私は旦那様に向かって大きく手を広げた。
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