【完結】年の差十五の旦那様Ⅲ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷な辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~
第36話 前夜(2)
 私の言葉を聞いたサイラスは、少し間を置いて「……いえ」と言ってくれた。

 彼は顔を背けている。しばらくして、鼻をすするような音が聞こえてきた。……いろいろと、サイラスにも思うことがあるのだろう。

(本当……私は、ここにきて愛されることを知れたわ)

 ずっと孤独だった。そんな私が愛されることを、愛することを知れたのは、間違いなくリスター家の面々のおかげだ。

 それを実感していると、扉がノックされた。サイラスが扉を開ければ、そこには旦那様がいらっしゃって。

 彼はお部屋に入ってこられると、私のすぐ隣に腰を下ろした。

「では、私はこれで」

 旦那様の姿を見て、サイラスが頭を下げて退室する。

 ……気を遣ってくれたのだろうか。私のわがままでいてもらっていたのに。

 そう思って眉を下げる私を見つめる旦那様。その目の奥が、少し揺れているような気がする。

「……シェリル。少し、いいだろうか?」
「はい?」

 改まって声をかけられて、私はきょとんとしつつ旦那様を見つめる。彼はおもむろに上着のポケットに手を入れて、そこからなにかを取り出された。……見た感じ、お守り、だろうか。

「俺の古い友人が『豊穣の巫女』の研究をしているんだ」
「……そう、なのですか」
「そいつが、送ってくれた」

 ぽかんとする私の手を取る旦那様。その手のひらの上に置かれたのは、やっぱりお守り。
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