【完結】年の差十五の旦那様Ⅲ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷な辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~
第37話 女神の策略(1)
 儀式が始まる一時間前。

 私は身支度を整えて、神殿のすぐ隣にある建物の一室にいた。

 これから、私は長く戦うことになる。……それを実感して、ごくりと息を呑む。

 神官たちが前準備をしているのだろう。音とか、声とかが微かに聞こえてくる。

(……大丈夫)

 震える手を押さえて、何度か深呼吸。

 そうすれば、私が待機する部屋の扉がノックされた。

「……はい」

 ちょっと上ずった声で返事をすれば、扉が開いて神官の一人が顔を、見せる。

「儀式について、最後の段取りを行いたく」
「……かしこまりました」

 私の返答を聞いた神官が、九十度の礼をした後、室内に入ってきた。

 そして、ソファーに腰掛ける私のすぐ隣に跪く。

(今の私は『豊穣の女神の依り代』だものね……)

 『豊穣の巫女』はいわば『豊穣の女神』から加護を受けた存在であり、それ以上に『女神の依り代』という意味合いも持つらしい。

 そのため、今の私は『豊穣の女神』そのものにも似た扱いを受けている。儀式が行われる当日から、終わるまで。私はシェリル・リスターではないということ。

「『依り代』さまの行うことといたしましては……」

 名前を呼ばないのも、その一環らしい。

「――と、いうわけでございます」
「……承知、いたしました」

 神官の説明に私は深く頷く。そうすれば、神官はさっと立ち上がってもう一度九十度の礼。
< 133 / 156 >

この作品をシェア

pagetop