【完結】年の差十五の旦那様Ⅲ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷な辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~
第38話 女神の策略(2)
 ……いつだったか。旦那さまも、そんなことをおっしゃっていた。

 恐る恐る女神さまの目を見つめる。その目に見つめられていると、背筋にぞくっとしたものが走った。

(……怖い)

 頭の中にはっきりと浮かぶ不安と恐怖。足が震えてしまいそうだった。でも、それを必死にこらえる。

「ほう、今回の巫女は相当精神的にたくましいようだ。……ま、そうでなければ、おもしろうない」

 女神さまが「よっと」と声を上げて、祭壇に乗り上げる。そのままそこに腰掛けて、私にぐいっと顔を近づけてこられた。

 長いまつ毛に縁どられた目が、私を射貫く。

「なぁ、おぬし。『豊穣の巫女』の真の意味を、知っておるかえ?」

 問いかけの意味は、わかった。

「……女神さまの、依り代、ですよね」
「おぉ、そうじゃ。わしの依り代。それがおぬしじゃ」

 一見すると美しさに似合わない口調だった。それなのに、今はその口調がしっくりときてしまう。

 彼女のその神秘めいた美貌が、要因なのだろう。

「よって、『豊穣の巫女』は大切にされる。女神に捧げられる存在でもあるからな」

 女神さまが脚を組み直す。ふっと緩めた唇の色っぽさに、同性である私も見惚れた。

「……このウィリス王国は『豊穣の女神』の加護で発展してきた。土、火、水、風、そして光。五つの女神が加護を与えておる。女神が建国の王に出した条件。その中で最も大切にされておるもの、わかるか?」

 彼女のきれいな指先が、私の顎をすくい上げた。

 弱い力なのに、拒否することは許されない。そんな、仕草。
< 136 / 156 >

この作品をシェア

pagetop