【完結】年の差十五の旦那様Ⅲ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷な辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~
閑話3 夜の訪問者(ギルバート視点)
 ◇

 アネットが突拍子もなくやってきた。

 そんな報告を受けた俺は、仕事もすべて投げ出して彼女の元に駆けた。

 アネットは、シェリルに何やら言っている。……肝が冷えたような感覚だった。

 もしも、アネットがシェリルに何かを吹き込んだのならば――と思って、二人の間に割り込んだのは記憶に新しい。

(……本当に、全く落ち着きのない日々だな)

 王家からの通達に関しても、アネットに関しても。……全く落ち着きがない。次から次へとトラブルが舞い込んで、休む暇もない。

 けれど、それは俺だけじゃない。……シェリルも一緒なのだ。

「はぁ……」

 執務室で、俺は一人ため息をつく。窓の外を見つめれば、外はすっかりと暗くなっている。……もうじき、深夜と呼ばれる時間になるはずだ。……眠る気は、起きない。

「どうすれば、全部が丸く収まるんだろうな」

 アネットのことも、王国の土のことも。何もかもがめちゃくちゃで、俺の思考回路はぐちゃぐちゃで。

 俺の最優先事項はシェリルの安全。守りたいし、危険なことなどさせたくないと思っている。……けど、状況がそれを許さない。

(王太子から返事の催促が、来ている。……そろそろ、本気で何とかしなければ)

 そう思っても、踏ん切りがつかない。

 じぃっと王太子からの催促の手紙を見つめつつ、俺は「はぁ」とまた息を吐いた。

 手紙に綴られた文字は、乱雑なものだ。王太子として送ってきている手紙なのに、文章は荒い。これは、旧知の仲だからこそ許されることだろう。なんて、思っていても仕方がないな。

「さて、また仕事に……」

 そんな言葉を呟いて、仕事の資料を手繰り寄せたときだった。

 ふと、執務室の扉がノックされた。……この時間に訪れる客人など、いただろうか?
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