【完結】年の差十五の旦那様Ⅲ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷な辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~
閑話6 重なる(アネット視点)
 ◇

 カタカタと揺れる馬車。

 乗合馬車ということもあり、私のほかにも何人か乗客がいる。

 窓の外を見つめると、空はすっかりオレンジ色だった。

(ギルバート)

 心の中で、元々婚約者だった男の名前を呼ぶ。

 私のことを忌々しいと睨みつけ、嫌っていた彼。……当然だ。だって、私は彼に嫌われるように仕向けたのだから。

(なんていうか、幸せそうだったわね)

 リスター伯爵邸に通うようになってから、私はギルバートがいかに妻を愛しているのかを知った。

 もしも、もしも。あのとき婚約の破棄を私が告げなかったら、あの人の側に居たのは私だったのかも……なんて。想像して、その考えを振り払う。

 もしもなんて思ったところで、虚しいだけだ。

 ……それに、私には、そんなことを考える資格もない。あいつを捨てて、傷つけて。一生消えないであろう傷を残したのは、ほかでもない私。恨まれることはあれど、好かれることはない。

 ギルバートを本気で好いているであろう彼の妻にも。

 そう思うのに、彼の妻――シェリルさんは私と話がしたいと言った。まるで私のことを心配しているような目で、見つめてきた。

 その目が、私の心を傷つける。ぎゅっと唇を結ぶ。……だって、もうずっと昔に捨てたことが、未だに蘇ってくるんだから。
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