それは麻薬のような愛だった
それは麻薬のような
やっと手に入れた。
欲しくて堪らなかった伊澄の心を。
「…雫、」
見つめれば、どちらともなく触れる唇。何度も名前を呼ばれた。あれほど無口だったのが信じられない程に、伊澄は名前と共に「好きだ」と告げてくる。
しつこい程にキスを落とされ、それでも漸く離れた時にも、名残惜しさを体現するような銀色の糸が引いていた。
「…っ」
唇が離れた途端、雫は酷く恥ずかしさを感じた。思いが通じ合ってのキスがこれほどまでに恥ずかしいものだと思わず、顔に熱が集まるのを感じながら目を逸らした。
今更だと馬鹿にされるだろうか、そう思ってちらりと伊澄を見れば、雫に向かって真っ直ぐに視線を向けていた。
「な、なに?」
そんなに見られると恥ずかしいよと手で顔を隠せば、それを阻むように握られた。
「いっちゃん、手…離して…」
「……」
「な、何なの?何か言ってよ…!」
「…いや、」
苦し紛れに言えば、伊澄は視線を逸らす事なく告げてくる。
「なんか…雫が異様に可愛く見える」
「…は!?」
声を張り、真っ赤になって口をぱくぱくとさせる雫に伊澄は「ああ、」と何かを思いついたように納得した声を発した。
「ガキの頃みたいだからか」
「…。それは…馬鹿にされてるのかな?」
雫は不満気に眉を寄せたが、伊澄は静かに首を振った。