それは麻薬のような愛だった
初めての夏


「ねえ、また天城くん後輩に告白されたって」

「また?すごいね、もう新入生の通過儀礼みたいになってるじゃん」


中学三年にもなると、雫と仲のいい真面目で大人しい女子達は最早伊澄の事は芸能人かのように話していた。

自分達のような目立たない女があの伊澄に相手にしてもらえるはずがないと、土俵に立つのすら諦めていた。事実、伊澄の彼女と噂されるのはいつも一軍と呼ばれるグループに族する可愛くて目立つ女子ばかりだ。

雫もそんな彼女達に同調し「そうだね」なんて笑うが、心の内は伊澄への諦められない想いでいっぱいだった。


それが急に動き出したのは、その夏の事だった。

夏休みも中盤に差し掛かりその日も塾の夏期講習に通ったその帰り道、雫はあまりの暑さにアイスでも買おうと家の近所のコンビニに立ち寄った。

そこでたまたま同じようにそこに来ていた私服の伊澄と出会った。

同じ住宅街で家が数軒隣である二人は学校でこそ絡みはないが、こうして校外でエンカウントする事はそこそこあった。


「あ、いっちゃん」


昔からの呼び名で呼べば、すっかり成長して精悍となった顔が雫を向く。


「おー」


素っ気ない返事だが、それで良い。元々伊澄は少々気難しく愛想が良いタイプでは無いので、返事を返してくれるだけマシだ。

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