ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

24.リアムの憂い


 それからは順調だった。

 オリビアは笑顔こそ見せないものの、警戒心を解いてくれたのか、二人と多くの言葉を交わした。

「貧血予防の果物は何か」と改めて尋ねるシオンに、
「干しブドウやプルーン。アボカドやイチゴかしら」と答え、

「この温室に果樹が多いのは、何か理由が?」とエリスが問えば、
「お兄様が、小食だったわたくしのために集めたのですわ。過保護が過ぎると思いませんこと?」と、リアムのシスコンっぷりを暴露して、笑いを誘った。

 秋の香りに満ち溢れた温室で、淹れたてのお茶を飲み、忖度なしの会話を楽しむ。

 それはとても穏やかな時間だった。

 特に、オリビアはシオンを気に入ったようだ。
 シオンはもともと社交的なタイプであるし、更にオリビアより年下ということもあり、話しやすいのだろう。

 それに、リアムとの兄妹仲も悪くない。

 先日初めてオリビアに会ったときは、オリビアのリアムに対する接し方はやや事務的に見えたものの、こうして打ち解けてみると、オリビアの言葉の端々からはリアムへの敬愛の念が感じられる。

(何より、オリビア様を見る、リアム様のこの眼差しは……)

 ――優しくて、温かくて。
 それでいて、どこか寂しくて。

 その想いはきっと、これから望まぬ結婚をせねばならない、妹の未来を憂うもの。

(リアム様は、オリビア様の身を心から案じているのだわ。望まない結婚だもの、当然よね)
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