ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
25.呪いの傷痕
一方シオンは、オリビアと共にアボカドの植わっているという温室の奥へと向かいながら、エリスについて考えていた。
(さっきの姉さん、やっぱり少し元気なかったな。アボカドをいただいたら、早々にお暇した方がいいかもしれない)
本人は「大丈夫」と言っていたが、その言葉とは反対に、エリスはサンドイッチを一口も食べていなかった。
茶菓子に手をつけないこと自体はマナー違反でも何でもないが、体調を崩してしまってからでは遅い。
それに――だ。
シオンは、この屋敷に着いたときのことを思い出す。
(姉さんってば、僕との約束を破って『オリビア様に正体を明かす』提案をしてたからな。リアム様が断ってくれたからよかったものの、またいつ同じことを言い出すかわかったもんじゃない。勝手にお茶会の招待を受けたことといい、最近の姉さんは冷静さに欠けてる気がする)
その原因は、アレクシスが不在であるからか。それとも、妊娠による精神作用か何かだろうか。
あるいは、オリビアに同情しすぎているせいなのか。
シオンには判断がつかなかったが、長居をすれば、ボロを出す可能性は高まるだろう。
となると、やはり、一刻も早く帰るに限る。
――そんなことを考えていたときだ。不意にオリビアが足を止める。
「この木ですわ」
その言葉にシオンが顔を上げると、そこには深緑色の実を沢山付けた木がそびえ立っていた。高さは裕に五メートルを超えている。
シオンは、想像以上に巨大な木を前に、呆けたような声を上げた。
「……え、これ?」