ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

28.ジークフリートの目的


 それからしばらく後、演習場では予定通り射撃演習が開始された。

 だだっ広い演習場には、マスケット銃を装備した帝国軍の歩兵隊が横三列で隊列を成し、何百という銃声が絶えず響き渡っている。

 そんな中、地上三階部に設けられた演習場の貴賓席には、本来そこにいないはずのアレクシスとセドリック。それに、ジークフリートと近衛二名の姿があった。

 仏頂面なアレクシスに対し、やたら上機嫌なジークフリート。――そんな二人を、気まずそうに見守るセドリックと近衛兵。

 貴賓席には異様な雰囲気が漂っているが、ジークフリートはそんな空気をものともせずに、アレクシスに話しかける。


「ねぇアレクシス。あの歩兵は全部で何人いるんだい?」
「……帝国軍が七千。他国の歩兵を合わせれば、およそ二万だ」
「二万? へぇ、さすが圧巻だ。(まと)までの距離と精度は?」
「距離は三百フィート。……精度はここ二年で八割まで向上させた」
「八割か、いい数字だ。銃を改良したのかい? よくあるマスケットと変わらないように見えるけど」
「改良と言うほどではないが、銃身にライフリングを――」

 アレクシスは苛立ちを必死に抑えながら、ジークフリートの質問に答えていく。
 けれど内心では、悪態をつきまくっていた。

(なぜ俺がこいつの相手を……! 兄上はいったい何を考えている……!?)

 ――と、自分をここに送り出した第二皇子(クロヴィス)を、忌々しく思いながら。
< 136 / 237 >

この作品をシェア

pagetop