ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
29.ジークフリートの本意
――"君の初恋がどうなったのか"。
その言葉を聞いたアレクシスは、眉間に大きく皺を寄せた。
(なぜ、こいつがそれを知っている?)
確かにジークフリートには、学生時代にランデル王国で人探しをしていたことを知られてしまっている。とは言え、それがエリスであったことまでは知らないはずだ。
少なくともアレクシスは、エリスと初めて出会ったときのことを第三者に話したことはない。当時のことを知っているのは、セドリックとエリスの二人だけ。
それなのに、どうしてジークフリートは『エリスが初恋である』ことを知っているのだろうか。
眼光を鋭くするアレクシスに、ジークフリートは一層笑みを深くする。
「まぁまぁ、そんなに怖い顔しないでよ。僕は学生時代、ずっと君を近くで見ていたんだ。君の尋ね人の名前が『エリス』であることや、肩に火傷の痕があるということくらい、知っていたって何もおかしくはないだろう?」
「…………」
「だからさ、シオンから『エリス妃を取り戻したい』と相談されたとき、僕はすぐにピンときたんだ。名前や外見的特徴だけじゃない。十年前、シオンが僕の国に連れてこられた時期と、君たちが滞在していた時期がぴったり一致していたからね。――ああ、エリス妃こそが君の初恋の女性だったんだ、君は自力で彼女に辿り着いた、やるじゃないかと感心すらした。なのに蓋を開けてみれば、君はエリス妃の正体に全く気付かず、冷遇しているという事実があるだけ。流石の僕も呆れたよ」