ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

30.ロレーヌ市場にて


 それから一時間と少し後。

 アレクシスとセドリック、及びジークフリートと近衛二名は、港町ロレーヌの中心部にある、ロレーヌ市場を訪れていた。

 この市場は街のシンボルなだけあり、かなりの規模だ。
 肉や魚、野菜などの生鮮食品を始め、陶磁器や織物、本や雑貨、美術品や楽器に至るまで、ありとあらゆる露店が通りのずっと先まで立ち並ぶ。

 客層は平民から貴族、商人、軍人、外人などさまざまで、アレクシスやジークフリートの正体を気にする者はいない。

 そのため、一見して気楽な物見遊山――かと思いきや。

 セドリックは、市場を興味深そうに散策するジークフリートと、単独で買い食いしながら自由に動き回るアレクシスの背中。それを交互に眺めては、疲れた顔で溜息をついた。

 ――ああ、面倒なことになった、と。

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