ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
32.憎悪
十月の末の夕暮れどき。
帝都では、昨夜から激しい雨が降り続いていた。
雲は厚く、空は暗い。おまけに雷まで鳴り響いている。
そんな重たい街の景色を、リアムは自室の出窓から、冷めた瞳で見下ろしていた。
テーブルの上には、今朝方届いたエリスからの手紙が、開いたまま放置されている。
そこに書かれているのは、『申し訳ございません。先日のお申し出は、お受けすることはできません』という、短い一文。
それはつまり、『オリビアをアレクシスの側妃に』という、一縷の望みがついえたことを意味していた。