ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
33.リアムの悪意
「僕は先に本を見てくるよ。マリアンヌ様によろしくね」
「ええ。また後でね、シオン」
――その日、エリスはシオンと共に帝国図書館を訪れていた。
久しぶりに、マリアンヌと会うためだ。
(マリアンヌ様とお会いするのは、三週間ぶりになるかしら……)
最後に会ったのは月の始め。エリスの妊娠が判明した日である。
その後は色々と慌ただしく、体調的にも気持ち的にも、マリアンヌに連絡をしている余裕がなかった。
けれど先週マリアンヌの方から誘いがあり、リアムとのお茶会以降エリスの外出に渋っていたシオンも「マリアンヌ様からの誘いなら仕方ないか」と外出を認めてくれ、今日に至る。
エリスは、貴族専用の雑談スペースでマリアンヌの姿を探した。
だが、マリアンヌの姿はない。
(まだ着いていらっしゃらないようだわ。いつもの席で待っていましょう)
エリスは一番奥のテーブルに腰を落ち着けると、ウェイターを呼んで紅茶を頼む。
そうして、否が応でも思い浮かんでしまうリアムのことを考えて、小さく溜め息をついた。