ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

36.シオンの葛藤


 アレクシスがエメラルド宮に戻ったのと同じ頃、シオンは帝都中央区に建つ帝国屈指の一流ホテル、帝国(インペリアル)ホテルの一室にいた。

 豪奢な部屋の天蓋付きのベッド。その上で規則正しい寝息を立てるエリスの寝顔を見つめながら、シオンは椅子に腰かけ、項垂れていた。


(今頃、エメラルド宮は騒ぎになっているだろうな……)

 本来、このような形で皇子妃(エリス)を外泊させるなどあってはならないことだ。

 本人(エリス)の意思も確認していないし、何より、エメラルド宮の者たちに宿泊先すら報せていない。
 ホテルのペイジボーイに最低限の内容を記した手紙(メッセージ)を託しはしたが、あんなもの、ないよりマシ程度の伝言だろう。

(でも、姉さんにちゃんと話を聞いてからでないと、帰すわけにはいかないんだ)

 シオンは、数時間前のことを思い出す。
 帝国図書館で、リアムに連れ去られたであろうエリスを追って、休憩室に向かったときのことを――。
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