【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
41.対峙
部屋の中は陰鬱としていた。
白く充満した葉巻の煙に、日が昇って久しいというのに閉め切られたままのカーテン。
テーブルの上の灰皿には吸い殻が山のように積まれ――それを目にしたアレクシスは、大きく顔をしかめた。
(オリビアが嫌がるからと、タバコだけは絶対に吸わなかったこいつが……)
健康には特に気を遣っていたリアムが、今、目の前で平然とタバコを吸っている。
暗く淀んだ瞳でこちらを見据え、唇から白い煙を吐き出している。
その姿が、アレクシスを酷く不快にさせた。
自分をこんな風にしたのは他ならぬお前だと、責められている様な気分になった。
だがそれと同時に、可能性が確信へと変わっていく。
エリスの噂を流し、マリアンヌに偽の手紙を送りつけ、図書館でエリスを個室に連れ込んだその犯人は、リアムに違いないのではと。
そうでなければ、リアムがここまで変わってしまった理由に、説明がつかない――そう思った。
アレクシスは、事実関係を確かめるべく問いかける。
「答えろ、リアム。エリスに関する噂を流したのは、お前か」
けれどリアムは、肯定するどころかピクリと眉を震わせるだけ。
「噂? いったい何のことでしょう」
――と、まるで何も知らないような顔で。
そんなリアムの反応に、アレクシスは一抹の迷いを覚えた。
(まさか、本当に何も知らないのか?)
そう考えて、すぐに否定する。
(いいや、こいつは必ずこの件に関わっているはずだ)