ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
42.セドリックの焦燥
アレクシスの剣先が天を仰ぐ。
廊下から様子を伺っていた使用人たちから悲鳴が上がり、それと同時に、リアムめがけて振り下ろされる鋭い刃。
だが、そんなアレクシスの剣を止めようとする者がいた。
それは、他でもないセドリックだった。
「いけません、殿下ッ!」
セドリックは剣を両腕で支えながら、アレクシスとリアムの間に身体を滑り込ませる。
刹那、ガキィン――と剣がぶつかり合う鋭い金属音が鳴り響き、セドリックの全身に、電撃でも走ったかのような強い衝撃が加わった。
「――くッ」
(……重い。――流石殿下だ。片腕だったら、間違いなく折れていた)
セドリックはギリギリのところでアレクシスの剣を押しとどめながら、アレクシスの殺意に満ちた瞳を、真正面に捉える。
「落ち着いてください、殿下! 我が国では私刑は禁じられています! 私は、殿下が罪を犯すのを見過ごすわけには参りません……!」
そう、アレクシスを説得すべく訴える。
だが、アレクシスは力を弱めなかった。
それどころか、セドリックの剣を力任せにはじき返し、吐き捨てる。
「――ハッ! 俺の罪だと? そんなことはどうでもいい。こいつはここで殺す。もし俺の邪魔をするなら、たとえお前だろうと容赦はせんぞ!」
「……ッ、殿下……!」
(駄目だ。怒りで完全に我を忘れている。――どうすれば、殿下を止められる)