ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
48.違和感
――アレクシスが軍事演習から戻って早五日。
その日も、いつも通りの朝だった。
アレクシスと共に起床したエリスは、着替えを済ませたのち、アレクシスと朝食を囲む。
朝食を済ませたら、宮廷に上がるアレクシスを見送るため玄関ホールに向かい、そこに待機しているセドリックにアレクシスを引き渡す。
なお、『引き渡す』――という単語を使った理由は、アレクシスがなかなかエリスから離れようとしないからだ。
この五日間のアレクシスは、そろそろ出なければ間に合わないという時間になっても、「やはり今日は休みにしよう」などと言って、エリスを抱きしめて放そうとしない。
そんなアレクシスを宥めるのが、エリスの毎朝の仕事になっていた。
「殿下、そろそろお出になりませんと。セドリック様が困っていらっしゃいますわ」
「そんなもの、困らせておけばいいだろう」
「またそんなことを仰って。今日は殿下のお好きなミートパイを焼いてお待ちしておりますから」
「…………」
「ですから、早く行って早く帰ってきてください。ね?」
「…………はぁ、わかった。……仕方ないな」
こんなやり取りを交わし、エリスはアレクシスの背中を笑顔で見送る。
「夕方には戻る。宮からは絶対に出るんじゃないぞ」
という去り際の忠告に、拭えない違和感を抱きながら――。